休憩する人


ふっと気付いたときには、携帯の時計は7時35分を表示していた。
昨日、携帯のアラームを7時30分に設定していたから、
30分に鳴ったアラームを無意識のうちに止めて、そのまま意識を失ったようだ。
マズイ!と思い、身体を起こす。

今日は、名古屋へ新卒採用面接を受けに行く。
面接を受けるのが、少し久々なので、緊張する。
僕は、こういった面接や企業説明会に行く前日に必ず計画を立てる。
何時に起きて、何時に家を出発し、何時に駅に到着し、何時の電車で、どこで乗り継ぎ、
どこの駅で降りて昼食を食べ、何時に目的地に着くようにするか。

だから、5分の朝寝坊でも、バタフライエフェクトのように後々響いてくるのだ。
実際に、家を出る時間がズレ、遅れ気味に出発。
こういうときに限って、信号機は赤い顔をする。
それでも何とか電車が出る前に駅に到着。
本当は名古屋までの切符を買おうとしたが、窓口が混んでいて買えそうもない。
しょうがないので、自動券売機で最長の豊橋まで買う。
この時点で、電車の出発が3分後に迫っていた。

僕はお金を出そうと財布を取り出し、千円札を取り出そうとする。
だが、出てきたのは一万円札。
その一万円札を自動券売機に入れるが、いつものように吸い込まれていかない。
いつもは機械の向こうで誰かが引っ張っているかのように吸い込まれるのだが、
何故か券売機は僕の一万円を取ろうとしない。
「あ、一万円使えないんだ。」
と気付き、他の券売機を見回す。
すると、一番左の券売機に10,000のマークが。
それに気付いたと同時に一人のおばさんがその券売機の前へ。
「やばい、もう時間がない!」
と焦りつつもその人の後ろに付く。
その人が券売機を使った時間は1,2分だったと思うが、凄く長く感じた。
やっと自分の番になり、一万円札を券売機の口に入れる。
豊橋までの値段のボタンを押し、お釣りを待つ。
無人販売所とは違い、お釣りをしっかりくれる。
しかし、額が大きいため出てくるのも時間が掛かる。
「早く出て来い!」
やっと出てきたお釣りを手にし、すぐさま改札口を通り、
ダッシュで階段を駆け下り、何とか電車に乗車成功!

「はぁ。疲れた…」
前日の計画に問題があったからこの結果になった。
この経験を活かし、今後はもっと余裕を持たせねば。と心に誓う。

目的の電車に乗ってしまえば、後は計画通りだ。
2回乗り継ぎ名古屋へ到着。
名古屋で昼食を済ます。
名前は忘れたが、中華料理屋でタンメンを食べる。
久々に食べたが、うまい。
その後、地下鉄で伏見駅へ向かう。

面接する企業はその近辺。
ネットに載っていた地図のメモを片手に少し早歩きで進む。
この道でいいのか少し不安を抱えながら歩く。
この緊張感が意外と好きだ。
頼れるのは、このメモだけ。
一応、ライフラインは2つある。
オーディエンスを使い、道行く人に目的地のヒントをもらうか、
テレフォンを使い、企業の人に目的地のヒントをもらうか。
だが、やはり、それは最終手段だ。
誰にも頼らず、目的地へたどり着きたい。
今まで、オーディエンスは使ったことはあるが、テレフォンはない。
今回もそう願い、自分が信じたメモの通りに行く。
「この先にあるはずだ。」
もし、この先に目的地があれば、緊張から開放される。
逆になければ、更に緊張は増し、テレフォンを使うほかない。
「……おめでと〜う!」
みのさんの声と共に目的地の看板を見つける。
何とか、面接時間の10分前に到着。
一応、計画通り。

…面接中…

そして、面接を終え、出てくる。
意外と面接時間が短く、自分が用意していたことの半分ぐらいしか話せなかった。
だが、思っていたより緊張もなく、気軽に楽しく話せた。
面接をしてくれた方のおかげだ。
いい結果が届くことを祈る。

面接をしたビルのエレベータから出て、駅へ戻ろうと歩きだした。
数歩進んだそのときだ。
状況としては、僕の左側がビルで右側に道路があり、自動車が通っている。
その道路の、ある横断歩道を横切ろうとしたときだ。
横断歩道の真ん中で、自動車と自転車が止まっていた。
良く見ると、女性とお婆さんがそこにいる。
しかも、お婆さんは道路に?しりもち?をついていて、もう一人の女性が
お婆さんに近寄り、周りを見回している。
そのとき気付いた。
「事故だ!」
自動車に乗っていた女性が自転車に乗って横断歩道を渡ろうとしていたお婆さんと接触したのだ。
女性はお婆さんの手を持ち、お婆さんを立ち上がらせようとしてるが、うまくいかないようだ。
苦痛にゆがむお婆さんの顔が、反対側の僕の位置からも見て取れた。
そのまま通り過ぎても良かった。
どうしようか、迷い、少し様子を見る。
様子を見ていると、女性が、僕の反対側の店の店員にジェスチャーで助けを求めている。
それを見た途端に僕も動き出していた。
自動車に注意しながらお婆さんが倒れている横断歩道を渡り、
反対側から来た店員とほぼ同時に現場に到着する。
「大丈夫ですか?」
と声をかける。
僕に対してのリアクションはない。
女性はただ、僕の顔をチラッと見ただけ。
お婆さんも依然しりもちをついている。
店員とお婆さんが少し話し、
自動車に接触し自転車から倒れたときに腰をひねって痛めてしまったことが分かった。
まずは自転車とお婆さんを道路の真ん中から歩道へ移動させなければならない。
女性がお婆さんの乗っていた自転車を動かし、僕が来た歩道へ移動させる。
お婆さんは僕と店員に支えられながら、何とか歩道へ移動することが出来た。

お婆さんは、足に擦り傷を負っていた。
僕と店員はお婆さんの様子を少し観察する。
どうやらまだ動けそうにない。
その後、店員が
「救急車呼んだほうがいいですか?」
とお婆さんに聞いていた。
だが、それに対して、お婆さんは無反応。
そのかわり、このあと何か約束があるようで、行かなければいけないところがあるようなことを言っていた。
気付くと店員は店に戻っていった。
そして、女性は自動車を路肩に止め、また、こちらへ戻ってくる。
僕は、その女性に
「救急車呼んだ方がいいんじゃないですか?」
というようなことを言った。
その女性は僕の方を見て、小さく頷いた。
そして、僕はもう役に立てることはないだろうとその場を去る。
お婆さんに「ありがとうございます」の一言をもらって。

今考えると、店に戻った店員は救急車を呼びに戻ったのだと思う。
そして、改めて女性やお婆さんの様子を思い返すと、尋常ではなかった。
それはそうだ。女性はお婆さんを横断歩道のど真ん中で引いてしまい、
お婆さんは自転車に乗っている最中に車にぶつかり倒れたのだ。
冷静でいられるはずがない。
僕の問いかけに応えられないのも、すぐに救急車や警察を呼ぼうとしないのも、
ショックを受けて、精神が異常な状態にあったからだと後になって気付く。
冷静だったのは自分と店員だけ。
というか、今思うと僕は冷静すぎた。
冷静すぎて、対応が良くなかったのかもしれない。
もう少し、女性やお婆さんの立場に立つ必要があった。
原因としては、事故の瞬間を目の当たりにしていないので、どのくらいの勢いでぶつかったのかや
お婆さんがどういった転び方をしたのかを見ていないのが大きい。
それと面接が終わり、安心している精神状態の自分が、
事故を起こし、極限状態にある二人とうまくかみ合わなかったのだと思う。

その後、お婆さんやその女性がどうなったのか分からないが、
二人とも色々な意味で無事でいて欲しい。

その後、まだ時間があったので、
近くで丁度やっていた、
「世界最大の翼竜展 恐竜時代の空の支配者」
に寄る。
こういう展覧会は久々なので、良かった。
翼竜の骨の化石などが見れ、翼竜にも様々な種類がいることが分かった。
もし、現代に翼竜がいたらどうなるだろうと想像せずにはいられない。
彼らは恐竜と一緒に巨大な隕石によって絶滅したと締めくくっていた。
いつかは人類も彼らと同じ末路を辿るのだろうか。
そして、その後は人間より更に進化した生命体が地球を支配するのか。
この連鎖は終わりが来るのか。
翼竜たちが生きていた証として化石を残し、次代の生命にその存在を知らせる。
人間の存在もいずれは、化石として存在を地球に残すのだろう。
または、人間が地球を壊し、この連鎖を「ココマデ」にするか。

人間は選択しなければいけない。
いや、もしかしたら、もうその選択をしたのかもしれない。
手遅れになっていないことを祈る。

翼竜展を後にして、帰路につく。

帰りの掛川駅で乗り換えのときにカフェオレを飲んだ。
一気に飲み干してから気付く。
「よく振ってからお飲みください。」
遅い。
どうせなら、自動販売機から出てくるときに振っておいてほしい。
または、蓋を開けると自動的に中身が混ざるとか。
そんな機能はまだないか。
誰か作ってください。

今日も一日だけで一万円の出費だ。
一日一万円生活の伝説達成!
…切なさが残る。